靭帯損傷

靭帯損傷

 

靱帯損傷とは、骨と骨とを繋ぐ靱帯がスポーツや事故などで急激な外力を受けて損傷してしまった状態です。靱帯は関節を形作ったり動きを制御したりと、関節をスムーズに動かすために必要不可欠な組織であるため、靱帯が損傷すると運動機能に様々な障害が出てしまいます。

 

靱帯は伸縮性があまりない強靭な組織でできているので、伸びてしまうと戻らず断裂するしかありません。靱帯損傷と靱帯断裂という病名がありますが、どちらも靱帯が断裂していて、部分的な断裂なのか完全断裂なのかの違いになります。

 

そして、膝や肘などの重要な役割をはたす靱帯が完全に断裂してしまった場合や、複数の靱帯が断裂してしまった場合には、関節としての役割である動かしたり支えたりという運動機能が大きく失われてしまうこともあります。そういった場合には靱帯の再建手術が必要になります。

 

 

膝の靱帯損傷

 

膝の靱帯損傷で代表的なものといえば、後十字靱帯断裂と前十字靱帯断裂になります。十字靱帯という名前のごとく、膝関節の中央で十字にクロスするかたちで前十字靱帯と後十字靱帯が大腿骨と脛骨とをしっかり支えています。膝の安定性を確保する上でとても重要な靱帯ですが、それぞれが損傷したり断裂したりすることによる症状や治療についてご紹介します。

 

(1)後十字靱帯損傷と断裂

 

@後十字靱帯損傷と断裂の症状

後十字靱帯が断裂したり損傷すると、強い痛みと内出血による関節の腫れを起します。痛みによって膝を動かすことが出来ず、歩行が出来ない状態になります。そして後十字靱帯損傷に特徴的なのが、膝関節に対してすねの部分にあたる脛骨が後方にずれるということです。

 

A後十字靱帯損傷と断裂の原因

後十字靱帯断裂の原因で多いのは、スポーツや転倒事故、交通事故などによるものです。特に多くみられるのはダッシュボード損傷と言われるもので、脛骨の膝のすぐ下の部分が後方に強く押されることによって起こる損傷です。スポーツではラグビーなどでこの位置にタックルを受けたりして、さらにひねりが加わったりすると起こります。

 

B後十字靱帯損傷と断裂の診断

後十字靱帯損傷と断裂の診断に用いられる方法として、重力テストというものがあります。患者が仰向けに寝て、膝を曲げた状態で足を上げ、すねの部分が水平になるようにします。この状態で健側と患側を比較すると、後十字靱帯が断裂している場合には患側で脛骨の上端部にずれが生じます。また、下腿の膝下の部分を両手で持って後方に力を加えるという方法もあり、健側と比較して患側では後方への移動が大きく、ぐらぐらした感じがあります。

 

こういった診断法とは別にレントゲン撮影も行い、靱帯の状態を確認するためにはMRIの撮像を行います。靱帯が断裂している場合には、今後の治療方法を決定するために、後十字靱帯が完全に断裂しているのかどうか、膝にある他の靱帯に損傷はないか、等の確認を行います。

 

C後十字靱帯損傷と断裂の治療

後十字靱帯は膝関節の中で、大腿骨の中央部と脛骨の後方とを繋ぐ、とても太くて強靭な靱帯です。そのため、後十字靱帯が完全に断裂してしまうことは少ないこと、血流も良いため再生も早いこと、受傷による半月板や軟骨などの二次的な損傷も少ないこと等の理由から、保存的治療が多く選択されます。

 

保存的治療では装具やギプス、サポーターなどで固定したり保護したりすることで安静を保ちます。損傷の程度が比較的軽度であれば、保存的治療によってほとんどの場合治癒します。状態が改善すれば、リハビリを行い筋力増強を図ります。

 

一方、靱帯が完全に断裂していたり、半月板や軟骨も損傷している場合、日常生活に支障があるほど膝が不安定な場合などには手術が選択されます。また、スポーツを続けるために手術を選択する場合もあります。

 

後十字靱帯断裂の手術は、患者自身の体内から採取した健を後十字靱帯の代りに移植します。手術は、大腿骨に膝関節中央部へのトンネルを開け、移植する靱帯を穴に通して金具で固定し、もう一方を脛骨の膝関節後方部に穴を開けて固定するという、かなり大掛かりなものとなります。また、この手術は実施件数も多くなく、高度な技術を必要としますので、経験の豊富な医師と医療機関を選ぶ必要があります。

 

 

(2)前十字靱帯損傷と断裂

 

@前十字靱帯損傷と断裂の症状

前十字靱帯が断裂すると、膝の痛みや腫れの他、膝に力が入りにくい等の違和感を覚えることが多くあります。また、坂道や階段を下りるときに膝がガクッとなる「膝くずれ」と呼ばれる状態が多く起こるようになります。

 

こういった、膝が不安定な状態をそのまま放置しておくと、次第に半月板が擦り切れてしまい、それによる痛みや障害が起こるようになり、さらに進むと軟骨も痛めてしまいます。このため、膝の不安定感がある場合には早めに治療を行う必要があります。

 

A前十字靱帯損傷と断裂の原因

前十字靱帯損傷はスポーツ中の発生が多く、急激なターンをしたりジャンプの着地の時にバランスを崩して回転する力が加わったりすると起こりやすくなります。大腿骨に対して脛骨を内側や外側へひねる力が加わると、膝関節の中で前十字靱帯を引きちぎろうとする力が加わり、さらに大腿骨と脛骨に挟み込まれるような形になってしまうことが、前十字靱帯損傷と断裂の原因になります。

 

B前十字靱帯損傷と断裂の診断

前十字靱帯損傷と断裂の診断に用いられる方法としては、ラックマンテストと前方引き出しテストという方法があります。ラックマンテストは患者が仰向けで足を伸ばした状態で、前方引き出しテストは膝を立てた状態で、それぞれ膝裏から脛骨上端部を手前に引いて、健側と患側とを比較する方法です。

 

また、それと同時にレントゲン撮影を行います。前十字靱帯が断裂する時、膝は普段決して無いような形になって関節包に無理な力が加わりますので、膝関節を外から支える靱帯の大腿骨付着部に剥離骨折が起こることがあります。レントゲンに靱帯は写りませんが、大腿骨と脛骨の位置関係の他にも、靱帯断裂によって起こるこのような変化が無いかどうかもチェックします。

 

前十字靱帯の詳しい状態についてはMRIを撮像することによって診断します。また、半月板や軟骨、骨の損傷が無いかどうかも確認し、治療方法を決定します。

 

C前十字靱帯損傷と断裂の治療

前十字靱帯損傷と断裂の場合には、ほとんどの場合に手術による治療が選択されます。これは、後十字靱帯の損傷に比べて保存的治療による治癒がほとんど期待できないことと、放置することによって半月板や軟骨への二次的な障害を起す危険が高いためです。

 

手術は後十字靱帯と同じく、患者自身から採取した健を移植します。前十字靱帯再建術の場合には、膝関節内の前十字靱帯があった部分を貫くように、大腿骨と脛骨にトンネルを開けます。そのトンネルに再生した靱帯を通して両端を金具で固定します。

 

前十字靱帯再建術は実施件数も多く、術式も確立していますので、多くの医療機関で行うことができます。また、一般的には太い一本の靱帯を再建する術式が行われていますが、最近では細い二本の靱帯を再建する術式も行われており、メリット・デメリットを考慮して選択する余地が広がっています。

 

 

肘の靱帯損傷

 

肘は複雑な動きをする関節ですが、これは靱帯でしっかりと固定されているために可能な動きです。肘も転倒などによって靱帯損傷を起すことの多い部位になります。

 

@側副靱帯損傷の症状

肘の靱帯損傷には外側側副靱帯損傷と内側側副靱帯損傷とがありますが、これらの靱帯は、三つの骨が組み合わさって複雑な動きをする肘関節を、しっかりと固定する役割をはたしています。これらの靱帯が損傷すると、肘の痛みや腫れ、関節の運動制限などの症状が現れます。また、事故などによって靱帯が損傷した場合には脱臼や骨折を伴う場合もあり、そういった場合には肘関節が動かせなかったり変形したりということもあります。

 

A側副靱帯損傷の原因

側副靱帯損傷は、主にスポーツや事故などで転倒した時に手をついて、肘に普段曲がらない方向への無理な力がかかることによって起こります。そのため、側副靱帯損傷には肘関節の脱臼や骨折を伴うものと、靱帯のみの損傷のものとがあります。

 

また、他にもスポーツによって側副靱帯に無理な力が繰り返しかかることによって損傷する場合があります。これは、野球の投手が無理のあるフォームでの投球動作を繰り返すことで多く起こります。

 

B側副靱帯損傷の診断

側副靱帯損傷の診断では、まずレントゲン撮影を行い、脱臼や骨折がないかを確認します。そして次に、靱帯の付着部周辺を押さえてみて痛みがないかの確認と、靱帯に負荷を加えて痛みや関節が外れそうな感じ、コキッとなる感じがあるかどうかなどをテストします。側副靱帯損傷が疑わしい場合には、さらにMRIを撮像し、靱帯の様子を確認します。

 

C側副靱帯損傷の治療

側副靱帯の損傷では、基本的にギプスなどで2〜3週間固定して、その後リハビリを開始します。固定することによって肘関節の安定性は増してきますが、同時に肘関節の拘縮が起こってしまうので、出来るだけ早く可動域確保のためにリハビリを開始することが望ましいです。また、脱臼を繰り返す場合や、靱帯が断裂してしまっている場合には靱帯修復手術を選択します。

 

そして、野球の投球によって起こる内側側副靱帯の障害の場合にも、基本的には固定して安静による治癒を試みますが、投球を始めるとまた痛みを繰り返すことが多いです。このような場合には、繰り返し行う投球動作のために靱帯がすり減って薄くなってしまっていることが多く、靱帯を修復するためには靱帯を移植する手術が必要になります。手術では、利き手と反対側の前腕から健を採取して患部に移植します。このような手術は実施件数が少なく、また高度な技術を要する手術であるため、経験が豊富な医師と医療機関を探す必要があります。